読んでる本の事『石蹴り遊び』

オリベイラはどこにいたのかというと、精神病院にいた。患者としてではない。職員としてだ。パリを離れてアルゼンチンへ帰ってきたオリベイラは、古い友人の、名前はなんと言ったか、「トラベラー」と呼ばれている人物とその奥さんに出会う。オリベイラはアルゼンチンに到着する前、パリを離れてからずっとラ・マーガを探していたようだ。パリのアパートを出ていき、今はどこにいるのかわからない、あるいはどこかの川底に沈んでいるのかもしれないラ・マーガ。オリベイラは彼女を探し、いたる所で彼女と出会う。単に彼女の幻を見たというだけのことだが、そうではなくてラ・マーガはやはり実際にその場所に現れていて、どこか別の次元からやってきて、次の瞬間にはまたどこかへ(あちら側へ?)去って行く、そういう瞬間をオリベイラは見たのかもしれない。そのように見なしても良いのではないか。


ちょっと読み返したら、オリベイラがそこら中でラ・マーガの幻を見ていたというのは勘違いで、どうやらアルゼンチンに帰る前にモンテビデオのセロ丘に立ち寄った夜、船の通路かどこかを歩いて行く女性が彼の探している人に見えた、ということがあって、その後アルゼンチンの港で出迎えてくれたトラベラーの奥さん「タリタ」がラ・マーガに似ていると思ったということらしかった。


トラベラー夫妻はサーカスで働いていたが、座長がサーカスを他の人に譲り、精神病院を購入したか何かしたため、夫婦もその病院で働くことになった。オリベイラも一緒に働いている。病院の塀の内側には中庭、そこには噴水や木がある。病院の建物の窓からその中庭の様子が見渡せる。オリベイラは窓辺の部屋で考え事をしたり、恋人のゲクレプテンへの手紙を書こうとしていた。星が出ている夜のことで、中庭をタリタが歩いて行くのが見える。オリベイラは中庭でラ・マーガが石蹴り遊びをするのを見るが、それはタリタで、あるいは一瞬の後にはタリタに変わっていて、二人は会話を交わした。病室の見張り役をトラベラーと交代した後、またタリタがやってきて、オリベイラは話をして、それは彼が話せないと思っていた話、ラ・マーガの事やタリタがラ・マーガに似ている事についての話だった。だけどオリベイラはその話をタリタにしたというよりは、タリタに変わってしまったラ・マーガ、まだほんのちょっとはラ・マーガであるかもしれないタリタ、今そこにはいない誰かに話しているようで、もしかすると別のところで別の人に話しをしているオリベイラの言葉が、今ここにいるオリベイラの口から漏れてきているのが聞こえただけだったのかもしれない。それは鳩ーー多分死んだ鳩ーーを抱いて、死体安置所で死者と会話する老患者の姿と重なっている。

そしてオリベイラは死体安置所でタリタにキスをし、あるいはラ・マーガにキスをし、あとでタリタはトラベラーに触れたり、もたれ懸かったりしながら、自分が誰かのゾンビではないという事を、自分はどこかの川底にいるのではないという事を取り戻さなければならなかった。


今はそんなところまで読んだ。ここまでのところ、この病院のシーンと、ベルト・トレパとの雨の夜、ロカマドゥールの死体をラ・マーガが発見する所、キブツがどうとか言っている場面、が面白かった。あと数十ページで番号順に読むのが終わって、そしたら指定された順序で読む方に進むことができる。


オリベイラが籠城し、金盥や紐で仕掛けを作り、そこは暗くて夜だったのだが、石蹴りの線図にラ・マーガであるところのタリタが立っていて、トラベラーが扉を開け入ってくると、すでに夜が明けていて、明るくなった中庭と、薄暗くてそこら中に糸が張り巡らされた水盆だらけの部屋、視界がひらけて行き、そこに浮かび上がるのは可哀想なオリベイラの姿だった。求めているものへと決してたどり着くことのできないオリベイラ。彼の苦しげな言葉をトラベラーは理解できるが、しかしトラベラーは言わば鏡の向こう側にいて、理解できるというだけでそちらには行かれない。オリベイラもまたそこを超えていくことが出来ず、鏡写しになった二人の間をつなぐことはできない。それではオリベイラは、あるいはラ・マーガはどうすればいいのか。もしかしたらこれから読むことになるもう一つの物語の中、そこに解決ではなくても何か別のことが、別の方法の可能性があるのかもしれない。