ストリップを見に行こうと思ったのは

ストリップを見に行こうと思ったのは先週の土曜日の事だった。金曜日かもしれない。どんな場所なのか、実際どのようなショーが行われているのか、という事に興味があったわけではない。そういった「社会科見学」のような気持ちで、どこか俯瞰したような態度をとりながら、人間観察などと称しその場所を楽しもうと来ている人たちを――いくらかの軽蔑をこめた眼差しで――見つめる。そんな事をしてはいけないと思うのだ。そのような態度は、その場所に対して、出演者、裏方のスタッフたち、そして観客に対してもひどく敬意と誠実さを欠いたものだろう。

それはともかく、私は「女の裸が見たい」というただそれだけの理由で、1週間の間ストリップの事を考えて過ごしていた。いや正確に言えばストリップの事とエストニアのサーレ県のことを考えていた。しかし、ストリップを見に行って一体どんな感想を持つだろうか。大方「女性の裸体は美しいと改めて思った」とか「ストリップは別にいかがわしいものではなく、踊り子たちが自らの体を曝け出して踊る姿に感動を覚えた」とか「ダンスに彩りを添える観客たちのリボン投げ、その熟練の手さばき、ダンサーと観客が一体となって温かみのある空間が生み出されていた」といったフレーズ、予定調和的なお決まりの賞賛の言葉が出てくるに違いない。行く前からわかっているような気がする。それでも実際に行ってみない限りわからない事はあるはずだし、何より一週間色々と予習してきたことが、行くのをやめたら無駄になる。

だから明日はストリップショーを見に行く。その後は東京国立近代美術館で「日本の家」展を見て、その後美術館の前庭でビールを飲んで過ごす。都内のいくつかの美術館で「ナイトミュージアム」という企画が催されている。通常より閉館時間が遅くなり、東近美ではガーデンビアバーが営業されるらしい。

中断
再開

秋葉原からつくばエクスプレスに乗り換えて浅草駅を目指す。つくばエクスプレスの駅は秋葉原ヨドバシカメラ側にあり、その辺りはスッキリと綺麗な町並みになっているように見えて少し驚いた。街路樹が立ち並び、待ち合わせの人々が何人もいた。ひとくくりに出来ないような多様な人達がいて、町のカラーが見えない。電気街口の方とはまったく違った様相だ。地下で「ランチパック」の専門店を見かけ「ほお」と思う。改札を通りホームへ向かうところ、階段を選んでしまったのは失敗だった。つくばエクスプレスのホームは深い。この電車に乗るのも初めてだから、そんなことは知らなかった。そしてホームに向かうまでの間に、自分が緊張し始めている事に気づいた。行ったことの無い場所に向かう時はいつもこうだ。向かった先には良い事なんて何も無いような気がする。少し帰りたい気分になる。

浅草駅に着くとそこには隅田川花火大会の案内。今日がその日だった。「よりによってこんな日にねぇ」と思いながら浅草ロック座に向かった。開演まであまり時間が無かったのと、事前にロック座のTwitterで「連日満員」というような文言を見ていたためさっさと階段を上る。花や出演者の写真もちょっとは見ておけばよかった。階段を上りきると目の前に受付があり、チケットを購入し、すぐ左手にいたスタッフの方にチケットを渡す。常連と思しき方たちが話しをしていた。一人は話しながらもせっせとリボンを巻いている。ストリップショーでは、常連の観客がここぞというタイミングでステージのリボンを投げたりする。そのリボンを投げる人は「リボンさん」と呼ばれるらしい。そういったことを私はしっかり予習してきていたので、その方が「リボンさん」なのだという事がすぐにわかった。だから何だという話だが。しかしこんな事でも実際に見てみないと中々気づかないもので、リボンをキレイに投げるためには、キレイに巻いておかなければいけない。ステージの間何本もリボンを投げるリボンさんは自分が投げるだけのリボンを事前に巻いてスタンバイしておかなければいけない。彼らはそれを喜んでする。彼らは出演者たちの表情やちょっとしたミスをよく見ていて、その踊り子の体調とか気分、楽しんで踊れているかどうかといった事を考えている。そこには気遣いや思いやりといったものも込められている。単純なファン心理とは違う、というかそもそもファンというものはこうであって欲しいものだ、などと考えながら席に着く。映画館のように座面が折りたためる椅子で目の前にはステージがある。ステージの高さがおおよそ目線の高さくらいだった。

ブザーが流れ(といっても本当にブザーが鳴ったのかどうか記憶が定かでない)ホールが暗くなる。音楽が流れ、ステージの幕が開き、ダンスが始まる。踊り子たちが現れたとき、綺麗だな、と思った。何て単純な感想!だけどそれが本当にその時感じた事で、事前に思っていたよりもステージ上の人たちは綺麗に見えた。ステージ用の、ライトに照らされたときに映えるメイクや、音楽に合わせて踊るという事そのものが彼女たちを一層美しく見せていた。いやぁ、音楽はいいな、やっぱり音楽は良い、素晴らしい。そんな事を考えていた。浅草ロック座の70周年記念公演だったそのショーは、1景から10景まで(それぞれの演目、場面を順番に「○景」と呼ぶのだそうだ)各ダンサーがそれぞれ異なる国や地域をテーマに踊るというものだった。

最初の出演者全員でのダンスが終わると、1人目のダンサーが舞台の前に出てくる。客席側にせり出したその舞台の中央は円い円盤状になっていて、そこの部分が回転する仕組みとなっていた。服を脱いだダンサーがこちらの方に、中央の円盤に向かってくるのを見たとき、「裸で踊るというのは何て心細いことなんだろう」という考えが自然と浮かんできた。自身を隠すものが何も無い状態で、大勢の人の視線の前に出て行く。他の人たちは全員服を着ているのに、自分だけが裸で。観客たちはどんな目で彼女を見るのだろう。私はなんだかステージ上の踊り子の事を応援したくなる。踊り子が回転台に座りポーズを決める。拍手が沸く。リボンが踊り子の頭上を飛ぶ。熟練のリボンさんがそれを投げるとき、リボンが踊り子や他の観客にあたる事は決してない。そしてそれは空中に何本ものライン描き、一瞬その場に留まり、急に時間を巻き戻ししたかのようにリボンさんの手元に戻ってゆく。良い瞬間だった。観客たちの視線が彼女たちを怖気づかせるようなものではなく、彼女たちを勇気づけて、自信を持ってダンスを踊りきる事ができるよう励ますものであって欲しいと思った。


とはいえ、それと同時にエロい目でも彼女たちの事を見るのだった。これは人によって意見が分かれるところであると思う。踊り子を見つめて、いくつものステージを体験してきた常連の人たちや、長く誰かのファンを続けている人たちは、もう彼女たちの裸を見ることなんてすっかり目的から抜け落ちてしまっているかもしれない。でもみんながそうなれば良いわけではないと思う。どういえばいいのか分からないけれど「男性から見たときに、ある女性の裸体がもはやセクシャルなものでは無い、っていうのはそれどうなの。ある意味侮辱じゃないの」という事だろうか。ものすごい常連の人とか、長年来のファンの人とか、半分家族とか親類みたいな気分になっちゃっている人はともかく。だから私を含めて通常の観客は「あの子のお尻はいいね」とか「腰周りの肉付きがたまらん、グヘヘ」とか「( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい」とか、何かそんなの、下品で申し訳ないけれど、そんな事考えながら観てて良いんじゃないかな、と思う。そんな事を考えながらでも、時折「今、すごく素敵な笑顔だったな」とか「キレイだな」とか、このステージのために練習して振り付けを覚えて、その様子に思いを馳せたりすることは出来る。出来るというか、自然と頭に浮かんでくる。そういう事全部ひっくるめて、ストリップなんじゃないかな、と思う。

そう、それからそれぞれのダンスも中々面白かった。ダンス自体のレベルは人によりまちまちとはいえ、正直に言って本当に素晴らしいものとはいえないと思うけれど、そこは問題ではない。景ごとに変わる音楽や衣装、何より踊り子それぞれの持っている個性や雰囲気が重要だ。あと体もか。突然それぞれの景について感想を述べますけれど、2景で北欧風?シガーロスみたいな音楽が流れて女の子がぐるぐる回って、何というか静謐な雰囲気があって個人的には好きだけど、あんなに回ってあの人大丈夫だったのだろうか。その次の景では一転ウェスタン風、音楽はウェスタンっぽく無かったけれど、その子が服を脱いだときに、一人拍手をしていた人がいて、この踊り子さんのファンというか応援している人が、そこに確かにいるという事がわかって、素敵な事だと思った。その次インド風の景では、この景で踊っていた子はダンスがうまい感じで、振り付けで手を伸ばすとき、本当に綺麗に伸び拡がる感じがあって、その後も難しい姿勢でよくバランスをとっていた。上手。5景はダンサーの方たちがフェイスベールをつけてアラブ風なのか、でも音楽はアラビックじゃないというもので、だけどゴージャスだった。何というかボスキャラ感がある。10分ほどの休憩の後、映画のトレイラーのようなものが流れる。あるフラメンコダンサーを追ったドキュメンタリー。しかし映像が少しおかしい。そして後半、突然のサンバと着物。長い間この場所で踊り、引退されていた方が70周年記念で特別にダンスを披露されていた。観客からご祝儀(お華というらしい)が渡されていた。踊り子とお客様、どちらもこの劇場を長く見守ってきた方なんだな、と思うとこちらも心動かされる。そしてどこかの島国風の踊り。先日公開されていた『モアナと伝説の海』とかああいう感じの衣装。それで踊った子は大変可愛らしく「あら、まあ可愛いわね」とか思いながら見ていた。次の8景ではジャングルで、ライトがヒョウ柄で、その後はロシア風で、この子も細かいステップや足の伸び方がキレイで、あとお尻が何だかとても好きな感じだった。そして先程トレイラーに出ていたフラメンコダンサーが登場し、バックダンサーの方々がそれぞれどこかの景でソロを踊っていたと思うのだけれど、誰が誰だかわからす、前に出るときと後ろで踊るときと雰囲気がまったく違うというのは面白い事だった。フラメンコダンサーにも花束が渡されていた。ステージに観客が近づいていってさっと演者に花束を渡す。そんな光景を見るのはいつだって素敵な事だと思う。そしてその後はグランドフィナーレだった。


劇場を出ると、通りを大勢の人が行き交っていた。浴衣の女性も多く、今日は隅田川花火大会だったのだと思い出す。空は曇って今にも雨が降り出しそうだった。この場所はますます人でごった返してゆくだろう。私は、早いとこ移動しようと考え駅に向かった。竹橋の東京国立近代美術館へ。